林けいこの老いの住まい
在宅介護を視点においたアドバイスや情報をお届けしています。
第18回
長期の護には定休日も夏休みも織り込んで
 夏休みに入って、「夫のお父さんの介護をしている」という女性からメールをいただきました。同じような悩みを抱えていらっしゃる女性も多いと思うので、紹介したいとおもいます。
お名前は仮に明子さんとしておきます。

明子さんは、ご主人が長男なので、ご両親の家で2世帯同居の暮らし。ご主人のお姉さん、弟さんが電車で1時間以内に住んでいらっしゃるとのことです。

「小学生のお子さんが『夏休みだから、どこか連れて行ってほしい』というので、お父さんも一緒に行けるところを選んで、ご両親もそろって1泊の家族旅行をしようと提案したところ、義理のお母さんとお姉さんから『非常識な』と猛反対された」というのです。

明子さんの言い分は、「5月の連休のときは、まだ病院から帰って介護生活にも慣れていなかったので、『おじいさんが大変な時だから』と子どもに言い聞かせて我慢させたけれど、夏休みも同じではかわいそう」と。

お母さんたちの言い分は、「介護保険でヘルパーさんにも来てもらっているのに、家族が遊びに出かけるなんて非常識」だというのだそうです。お父さん自身もあまり出かけたがっていないとのことでした。

体が不自由だったり、年をとると、外へ出るのがおっくうになりがちです。そのためにいろいろな刺激や変化に対して弱くなりがちです。また常に身近に居る人が居ないということに不安や寂しさを感じやすくなります。
しかし子どもたちはその逆で、新しい体験を欲します。両者の間に立って明子さんはどう行動したらよいか悩んでいらっしゃるのが今の状況のようです。

まず明子さん夫婦が一番責任を負わなければならないことは、子どもの養育に対してです。特にまだ子どもが小さくて、親とのふれあいが必要な年齢の場合は、まず子どもとの関係を最優先に考えます。
この場合、ご主人も家族旅行に賛成されているとのことなので、明子さんの世帯だけで行かれたらいいと思います。
明子さんファミリーの旅行にも、お母さん、お姉さんは反対されるかもしれませんが、自分たちファミリーにはこの親子の交流が必要なことを説明し、毅然と実行されたらいいと思います。
いつも頼りにしている明子さんが留守にされるので、ご両親は不安を感じていらっしゃるのかもしれません。ヘルパーさんに来ていただく時間を増やしたり、お姉さんや、弟さんにも協力をお願いしたりして、不安を感じなくていいことをご両親にきちんと説明してあげてください。

介護保険は、在宅の介護が過重にならないために設けられた保険制度です。行政からの施しではありません。介護者の休息のためという利用法も正しい使い方ですから、家族介護が幸せに行えるよう堂々と利用したらいいのです。

ヘルパーさんの費用が増えることで、明子さんファミリーの旅行に難色を示されているのであれば、明子さんご自身が、“自分は無償のヘルパーではない”とはっきり自覚されることが大切です。本来、介護に関する費用はご本人が負担することが基本です。今回の旅行でヘルパーさんの費用がご両親だけで負担が大きいということであれば、ご兄弟3人で等分に分担することを提案されてはいかがでしょう。

今回の旅行をきっかけとして、ご両親の介護に、明子さんのご主人はもちろん、お姉さん、弟さんに参加していただいて、明子さん一人に負担が集中しないよう話し合う場をもたれてはいかがでしょう。

脳梗塞で倒れたお父さんが、治療が終わって自宅に戻られてすでに6ヶ月。その間、明子さんは日曜日もなしで、お父さんのお世話をされているとのことです。「お買い物に出かけるのが唯一の気晴らしです。それでも、子どもの衣類を探して少し外出時間が長引いたりすると、義理のお母さんから『どこに寄っていたの』と聞かれるのがイヤでたまらない」とのことです。

まず介護に携わる方が、毎日、毎日介護の連続で開放される日がないのは決してよくありません。介護が始まって6ヶ月を過ぎたら、介護者は1週間に1日は完全に解放される日をとれるよう介護プランを立ててください。

「イヤでたまらない」ということは、明子さん自身なんとなく、「私はお母さんから管理される存在ではない」と感じていらっしゃるからではないでしょうか。そのとおり、明子さんの体も時間も明子さん自身のものなのです。そのことに確固とした自信があれば、「どこに寄っていたの」と聞かれても、なんのためらいもなく、自分の行動を説明できるはずです。明子さんにとって今、お買い物が唯一の息抜きという状況であれば、もうちょっとその機会をいかして本当にリラックスできるように工夫したほうがいいではないでしょうか。それも堂々と当然の権利として。
たとえば「今日はお買い物のついでにお友達と会ってお茶を飲んできます。夕食の準備までには帰りますから遅くなってもご心配いりません」ときちんと言って出かけるのです。ショッピングを楽しんだり、お茶をのんだり、自分を取り戻す時間を作り出してください。

介護で避けなければならないのは、イヤだけど仕方なくさせられているという状況、介護を強制されている人をつくりだすことです。
具体的には、「長男の嫁だから親の介護をするのは当然」という周囲の包囲網の中で、イヤイヤ介護をさせられるということです。

望ましい介護の状況は、「しなくてもいいけれど、私の能力が求められているから手助けしよう。それで喜んでくれるひとがいるから」という状況です。
実際にはなかなか難しい状況ですが、心の持ち方次第でけっして不可能ではありません。

介護は決してマイナスばかりではありません。
心の持ちかた次第では能力を大きく伸ばすことができます。
たとえば明子さんの場合、ゴールデンウィークに、お父さんの状況を考えて、今はこういう状況だから我慢しようね」と子どもを言葉で説得することは、かなりの説得能力がなければできません。
また、ご両親に「介護費用はご本人の負担が基本です。足りない分は子どもたちが等分に分担します」と言ったり、兄弟に分担を求めたりすることは、かなりの交渉力を要します。
私の場合は、我慢する力をつけたことも介護の成果でした。

6月30日に、大阪府豊中市(千里中央)のA&Hホールで「親の介護 自分の老後 50代から備えるいきいき暮らし術」のタイトルで講演させていただきました。定員200名のところ270名を超える方にお越しいただいて、ほんとうにありがたく少しでもお役に立てればという思いでお話させていただきました。そのなかで最後に自分の介護体験をお話ししたところ、後日、「いいお話だった」というメールをいただきました。

「介護をしている間いろいろな判断をしたり、兄弟と交渉したりしなければならないことがあります。その決断のとき“あの世でもう一度、親と会ったとき笑顔で顔を合わせられるかどうか”ということを判断の基準にしました」という内容です。
死後もう一度会うということを想定すると、声が出なくなった人にたいしても、恥ずかしいこと、顔向けできないことはできません。そうした状況に自分を置いたことで、結果的に我慢強い自分を体験することができました。介護はつらいこともありますが、笑顔で乗り切れば、すばらしい心の財産になります。
どういう巡り合わせか、介護が回ってきたら、その経験をプラスになるよう生かしてください。心の持ち方でけっして不可能ではありません。
※講演の冊子『親の介護 自分の老後 50代から備えるいきいき暮らし術』を読んでみたい方は、林けい子のオリジナルホームページからメールでお申し込みください。山口県、広島県、岡山県、島根県、鳥取県、兵庫県、大阪府、京都府、奈良県、滋賀県、福井県、石川県下の方には、無料でもらえる方法をお知らせします。


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