林けいこの老いの住まい
在宅介護を視点においたアドバイスや情報をお届けしています。
第20回
介護は上手に乗り越えれば豊かな心の財産になる
「介護をしているから何にもできないんです」という声をよく聞きます。
これは介護をしている方の大方の悩みだろうと思います。
自由になる時間は少ないけど、工夫次第で、介護の合間を縫っていろいろなことが可能です。

パソコン教室を始めてからいろいろな方にお会いする機会が増えました。
Mさんはご主人のご両親の介護をされている方です。パソコンを習いに来ているときが一番楽しいとおっしゃって、ご両親がデイサービスに行かれる日を使って毎週欠かさず習いに来られます。パソコンに向かっている90分間は本当に集中されていて、傍目にも気持ちいいほどです。
「電子メールがあれば、介護の合間に家に居ながらお友だちと交流することができますよ」とお勧めしたのがきっかけで電子メールを始められました。
電子メールのよさは、お互いに時間を拘束されないというところにあります。それぞれが空いている時間を使ってメールを書くことができます。そして速いから、すぐにお返事がもらえて、しかも文章は普通しゃべっているような話し言葉で書けばいいので、まるで対話をしているような感覚です。さらに音楽や写真、アニメーションを一緒に送ることができる点も楽しさを広げてくれます。
Mさんが「音が出る、動くメール」を教えて欲しいといってこられました。お友達からいただいたメールを開封すると、「かわいらしい妖精のイラストが描かれていて、オルゴールのメロディーが流れ出してきたんです。しかも妖精がメロディーに合わせてダンスをする、その可愛さったらないんですよ」と。そのときの驚き、メロディーに耳を傾けているときのシアワセ。「自分もそのようなメールをお友達に送りたいけど、できますか」と。「もちろんできますよ」と復習もあわせて4回学習に来られ、ご自分で、動く画像とメロディーをあわせてオリジナルのメールを作ることができるまでマスターされました。今ではお友達のあいだでも、素敵なメールを送ってくださると人気者だそうです。私たちまでメロディーつきのメールをいただいて癒されています。

確かに介護をしているときは時間が思うようにとれないです。しかしパソコンや携帯電話など先進の道具を使えば、それまでできないとあきらめていたことが可能になる場合、あるいは別の満足を得ることができるということもあります。

私が母の看病していたとき、病室に季節の変化を知らせてくれるものといったら窓から差しこむ光ぐらいでした。最初は、日に日に色づいていく公園の木の葉、街を歩く人の服装の変化など、私が食事や買い物に外に出たとき目にした出来事を話していました。
あるとき自分の携帯電話にカメラが着いているのを思い出し、街の変化を撮ってきて見せました。やっぱり映像は強いもので、私の言葉だけより、1枚の写真を添えて話したほうがいっそう面白がって聞いてくれました。
「今日はお店にマツタケが並んでいたよ」と話したときは、カメラに値段しか写っていなくて。母が「マツタケは?」と聞くので、「値段にびっくりして、マツタケのほうにピントを合わせるのを忘れた」といって大笑い。母も、ガンが転移していて動かすと痛む首筋を押さえて笑い転げました。今でもそのときの母の泣き笑いを思い出します。
今では多くの方がカメラ付の携帯電話を持っていらっしゃるのではないでしょうか。もし家族が交代で介護をされている場合など、携帯電話とそのカメラを使って介護者間の日記を配信するという使い方もできます。携帯電話には、複数の人に同時に同じメールを送る同報機能があるので、1回の操作で全員に送れる点も電子メールの便利さです。
たとえば、毎日の食事を撮影して、今日はどれだけ食が進んだとか、リハビリではこんなことをしたなど、写真があれば文章は説明程度でいいので、気軽に日記として記録を残すことができます。また介護者グループにパソコンを使う人がいれば、パソコンで介護日誌として編集することもできます。

確かに介護をしているあいだは、したいことがなんでもできるというわけにはいきません。しかし工夫次第で、こんな機会がなければできないことを実現することも可能です。

誰もが一度は経験する介護です。できないことを追い求めてストレスを溜め込むより、工夫して、介護をしたからこんないい思い出が作れた、経験ができたというようにもていってはいかがでしょう。
介護は、上手に乗り越えればほんとうに豊かの心の財産になります。


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