林けいこの老いの住まい
在宅介護を視点においたアドバイスや情報をお届けしています。
第22回
毎日の介護の壁に、お正月の来客で風穴をあけよう
介護をしている方にとって特に冬の朝は辛いですね。
年末、年始となれば、普段より仕事量も増えるので、たまっていた不満が爆発しそうになる季節でもあります。こんなときだからこそ、気持ちを切り替えて介護をしなければ、介護が終わった後で悔いを残すことになります。

毎日、毎日、介護をしていると、いつしか笑顔を失い、眉間に縦ジワを寄せ、言葉づかいも、立ち居振る舞いも荒々しくなっている自分に気づくことがあります。
そんな自分を「イヤだな」と思いながらも、毎日のこととなると、ついつい叱ってしまったり、言わなくてもいいひと言を言ってしまいがちです。

言葉で言えないから表情や態度で自分の辛さや大変さを分かってほしいと訴えているのです。

一生懸命介護をしているのに理解されないあなたも辛いけど、あなたと同じ辛さを味わっているヒトがもう一人いるのに気づいていますか。それは介護されている方です。

介護を受けているヒトにとっても、「介護しているヒトの辛さが分かっているけれど、自分ではどうすることもできないという辛さ」は大きなものです。そんなとき、ヒトは心を閉ざしたり、あるいは反発したりするようです。「私さえいなければ」とおっしゃる言葉の背後に、介護を受けられる方の辛さがあることを思いやってください。

介護の大変さを理解されないからといって、その不満を眉間の縦ジワで表現したとしても、何の解決にもなりません。自分自身の顔が醜くなるだけです。
自分の不満を分かって欲しい、介護の大変さを皆に認めて欲しいのに、どう表現したらいいか分からない。伝える言葉が見つからないから、態度で表現するというのでは、小さな子供と同じレベルです。
大人なら、イヤでも介護をしなければならないときは、貴重な経験と受け入れて、その中でもいきいきすごせる心の持ち方を工夫しましょう。

お正月になると決まったように耳にする不満があります。
「別の家に住んでいる兄弟や、嫁いだ姉妹が帰ってきては、親にやさしい言葉をかけて、いい顔をして帰って行く」というものです。
「1日、2日くらいなら、私だって優しい言葉がかけられる。毎日だから大変なのよ」と反論される気持ちにも共感できます。
しかし、今年はちょっと遠目にゆったりと眺めてみませんか。
優しい言葉をかけられた時、介護されている方の表情がいつになく嬉しそうではありませんか。
あんなに「強情な」と思っていた親が、素直に言うことを聞いているということを経験されことはありませんか?
自分が介護している時とは打って変わって、訪問者の前では、柔和で素直な態度になっていることに気づきませんか?

こんなとき、毎日介護をしているヒトは、お世話をしている方からも、周囲のヒトからもつまはじきにあったような寂しさを感じますよね。しかしこのとき、もう一度自分を振り返ってみてください。

こんなに毎日苦労しているのに、ちょっとだけ来て、いい関係を作っている兄弟姉妹にやきもちを焼いている自分がそこにいませんか?
確かにお世話はしてはいるけれど、心の中では「イヤだ」叫びながらお世話をしてはいませんか?
それでは、介護を受けているほうも心を開くはずがありません。
こうしてどちらもが心に壁をつくって、毎日辛さを増幅させているのです。

ではどうしたら毎日の介護の壁に風穴を開けることができるでしょうか?

まず訪問者のような優しい言葉かけをまねしてみてください。
まず訪問者のような柔和な笑顔で話しかけてみてください。
まず訪問者のように、話を理解しようと耳を傾けてみてください。

といっても心に不満がわだかまっていると、優しい応対なんてできません。
優しい自分を取り戻すためには、不満をいったん吐き出す必要があります。

お正月に兄弟姉妹が来るというのであれば、お客様としてではなく介護にきてもらいましょう。先方から「来る」という電話があったとき、快く受けます。そしてその間、いつも介護をしている自分たち家族は休息させてもらうことを伝えます。驚かれたり、反発を受けたりしたときは、「介護に優しい気持ちを取り戻すために、皆さんが家に来ている間、介護を肩代わりして欲しい」と事情をきちんとお話しされたらいいとおもいます。そしてきっぱりと行動します。

当日は、介護の手順や注意事項、病院などの緊急連絡先を伝えたら、温泉でも、お買い物でもいいから家から出てしまいましょう。引継ぎにあまり時間をとられないよう、お世話の手順や、着替え、介護用品の置き場所などをきちんと紙に書いて渡し、丁寧にお願いして出かけます(台所用具、調味料の置き場所などもラベルを貼るなどして分かるように表示しておきましょう)。

こうして不満解消を実行したら、こんどは約束を果たしましょう。

介護をするヒトの部屋に入る前、ドアの前で口角をキュッと上にあげて(こうすれば笑顔に見えます)、きちんと笑顔を向けてお世話をはじめてください。お世話の手順は決めておき、てきぱき笑顔(口角を上げた状態)で進めます。身支度の前に、手、足を温めるなど心地よい作業を取り入れます。言葉も、あらかじめ心に思い描いておきます。最初はぎこちないでしょうが、頑張って笑顔をつくっていると、心が晴れやかになってきます。

足や手を蒸しタオルで温めてあげるととても気持ちがいいです。タオルは熱湯に浸して絞るより、ぬらして固めに絞ったタオルを4本まとめて電子レンジでチンするほうがラクです。まず足をタオルでくるんで、そのうえから新聞紙でくるみビニール袋で包みます。手も同様です。お布団の中に寝ていても意外に手足は冷えていることが多いのです。最初の4本のタオルを出したら、次のタオルを1本、電子レンジにかけます。手足を包み終える頃、次のタオルが温まるので、それで顔を拭いてあげます。ご自分でできる方には、顔はご自分で拭いてもらったらいいと思います。このあと化粧水と乳液、保湿クリーム、リップクリームを付けてあげると肌の乾燥を防ぐことができます。顔の手入れが済んだら、手足もふき取って、保湿クリームを薄くぬってあげましょう。乾燥からくるかゆみを抑えることができます。保湿クリームにはオロナイン軟膏もいいですよ。

手足を温めてあげるのは、思ったほど手がかからないわりに気持ちがいいのです。固く閉ざされた心はすぐには開かれないかもしれないけれど、してあげているヒトの心はすぐに、気持ちのよいことをしてあげたという満足感を味わうことができます。

もう一つ、歯磨きは電動歯ブラシで行うとラクです。電動歯ブラシは乾電池式ではなく、充電タイプが使い勝手がいいです。

優しさを維持するには強い意志の力が必要ですが、この胆力はあなたの大きな財産になり、あなたの介護体験を心豊かなものにしてくれると思います。


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