林けいこの老いの住まい
在宅介護を視点においたアドバイスや情報をお届けしています。
第24回
なぜ、認知症のお年よりは悪徳業者にだまされやすいのか
新聞をみると、認知症の高齢者が悪徳業者にだまされて高額の買い物をさせられたという記事が増えています。
「成年後見アドバイザー養成講座」を開催したとき、学習の一環として認知症について京大医学部老年内科の武地 一先生に、加齢医学の最新の研究や認知症の特徴などを伺いました。そのとき認知症のお年よりはなぜだまされやすいのかという素人の質問に分かりやすく答えてくださいました。今回は学習のなかで私が感じたことをお話します。

認知症には、病気としての中核症状と、周囲の人間関係のなかで問題となる周辺症状があること。

認知症患者本人の心の世界―――自己認識と周囲の人たちに求めている対応、そうした自分を中心とする世界―――その世界が、自分が思い描いているものと異なるギャップにとまどい、自尊心を傷つけられることによって認知症の周辺症状がますます悪くなることがあるそうです。落ち込んだり、暴力的になったり、徘徊したりといった周辺症状は、周囲の人たちとの人間関係によってより悪化もするし、改善される場合もあるということです。

家族関係の中で、自分の期待している対応が得られない失意のとき、悪徳業者がやってきて、その人の思い描いている世界―――立派な実績をもつ会社員であった自分、あるいは権威ある父親であった自分の世界――その世界を肯定してくれると、その人に心を許してしまう。悪徳業者が高額な商品を売りつけようという下心があることは無視して、そのひとの言うなりに契約してしまうということがあるようです。

周囲が「悪徳業者にだまされた」と言っても認めようとしなかったり、「いい人だ」と言い張って被害届けをだしたがらなかったりという現象も、認知症患者のそうした心の働きと無関係ではなさそうです。

もっとも身近な家族の対応によって、周辺症状は改善もされるし、悪化もするということなので、家族が認知症患者の自尊心に配慮し、本人の求める世界を理解してあげることによって信頼関係が築かれていたら、悪徳業者のほうへ警戒心を持つのではないでしょうか。認知症というのはそれほど単純な病ではないので断定はできません。が周囲の理解が周辺症状を緩和することは確かなようです。

最近、相談をうけた事例をお話します。 「母の物忘れが、最近すこし度が過ぎているような気がする」と知人から電話がありました。 「母が同窓会に出席の約束をしていたらしい。当日、お友達から「なぜ来ないの」という電話をいただき本人にたずねたところ、本人は「知らない、そんな約束はしていない」と言い張る。家族が同窓会の案内ハガキをみつけて、約束していたことがわかったと。約束を忘れていたことを家族から責められて、本人はすごく落ち込んで、部屋から出てこなくなったというのです。

そこで認知症の検査をすすめました。京大付属病院に「物忘れ外来」(予約が必要)というのがあるので検査してもらうことをすすめました。ところが知人は「母はまだ自分で買物にも行けるし、認知症じゃないと思う」と検査につれていくことを渋るのですね。本人も「認知症の検査」ときくと嫌がって行かないと言うというのです。 そのときは、「物忘れ外来」だから、気軽な検査であることを強調してとにかく1度きちんと病院で検査することをすすめて電話を切りました。 そのあと少し知人との会話を振り返り、知人自身が、お母様の認知症を認めたくない、それで病院に連れて行きたがらないのではないだろうかと。。。

認知症は、治る認知症もあるので早めに診察を受けることが第一です。周囲との関係で周辺症状が悪化する前にぜひ早めの診察をすすめます。

実は、突然、わが家で介護が始まりました。 4歳年下の弟のことで、姉から電話がありました。「話の内容がちぐはぐでおかしいのですぐに来てほしい」というのです。 次回は、50歳代の介護のお話をします。

武地 一先生(京都大学大学院医学研究科 加齢医学(老年内科))による「認知症について」(2日目:講義6)。認知症高齢者のケアモデルの発達や、認知症に含まれる病気とその特徴。治る認知症と治りにくい認知症。法定後見制度を利用するにあたっての認知症の診断基準についてなど具体的な事例をもとにお話を聞くことができました。近年イギリスのトムキッドウッド(ブラッドフォード大学)らによって提唱されている「人」を中心にみる最近の認知症の捉え方。認知症の中核症状と、周辺症状のちがい。「認知症の治療法」や「認知症患者はなぜ悪徳商法にだまされやすいのか」といったコーディネーター側からの質問にも、認知症患者が感じている世界と求めていることについて、ほんとうにわかりやすく説明してくださいました。認知症患者の介護負担を軽減するには、究極は周囲の人たちが病気について理解し、人としての尊厳に配慮することの大切さであると、認知症の方との暮らしに役立つ知識もたくさんいただきました。


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